File #3 IoT社会実現に向けたトータル技術開発

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シリーズ:アンビエントロニクス研究所の研究シーズ

電子物理システム学科 柳澤政生 教授、史又華 教授

(情報システム研究室)

 

「柳澤教授、史教授が主宰する「情報システム研究室」では、IoT社会の実現に向けて、「エネルギー」「セキュリティ・通信」「データ解析・処理」の3つカテゴリーの研究に取り組んでいる(図1)。グリーン・コンピューティング設計技術、集積回路(LSI)設計技術、無線通信回路設計技術、情報センシング・解析技術などの研究開発を横断的に行っている。一つ一つのテーマの深堀も重要であるが、IoT社会の実現においては、この3カテゴリーの技術がセットで使用されるため、同一研究室でこれらを包括的に扱うことが極めて重要である。本学の数ある情報系研究室でも、このようにハードからシステムまで網羅する研究室は少なく、様々な技術のまとめ役として、アンビエントロニクス研究所の中でも重要な位置を占める研究室である。


図1 IoTの3カテゴリーと情報システム研究室の研究テーマ

 

IoT社会実現に向けたトータル技術開発

例えば、「エネルギー」のカテゴリーでは、エナジー・ハーベスティングで得られる微小エネルギーを有効利用する、新たな回路技術の研究を行っている。これについては次項で詳しく述べる。「セキュリティ・通信」のカテゴリーでは、安心かつ信頼できるシステム設計のため、「ソフトエラー」の対策研究などを行っている。現代社会の利便性・安全性確保には 半導体集積回路の信頼性が重要であるといえる。しかし、近年のLSI の微細化によって、回路面積と共に、回路の臨界電荷量(キャパシタ成分)も低下している。放射線によって集積回路中の記憶素子(メモリセルやラッチ・フリップフロップ)が反転する一時的な誤動作(=ソフトエラー)が増加しており、情報化社会の脅威としてその対策研究の重要度が年々増している。「データ解析・処理」のカテゴリーではAIシステムの活用を主眼としている。例えば、ニューラル・ネットワークを用いて、画像を介した翻訳/言語解析システムの研究を行っている。ヒトの音声入力からいくつかの画像をAIで生成させ、生成された画像その結果を音声や文字で出力するという。機械学習でトレーニングさせて意図したとおりの画像が生成できるようにする。海外旅行者向けの応用を想定しているが、コミュニケーションの難しい病を患った方との交流にも活かせる可能性があり大変興味深い。
情報システム研究室では、こうしたシステムの情報処理を担うプロセッサーチップも試作している(図2)。その他、センサー情報とAIを組み合わせた研究として、自己位置推定+マップ生成技術によるロボットの自律動作(動画)や、正確な動作判定、新しいヒューマンインターフェイスの提案に向けた生体情報解析の研究も行っている。

 


図2  試作チップ

 

動画 自己位置推定+マップ生成技術によるロボットの自律動作

 

ボディ・エリア・ネットワークにおける回路設計(圧電素子および熱電素子向け)

アンビエントロニクス研究所の主要キーワードであるエナジー・ハーベスティングでは、様々な発電技術を対象としているが、情報システム研究室では、人に由来するエネルギー(振動および体温)の変換技術に力を入れている。「人」にフォーカスを当てるのは両教授の強い思いでもあるようだ。具体的には、圧電素子および熱電素子用のパワー・マネージメント回路を設計している。一般的な圧電素子では約100Hzの機械振動が利用できるが、人体が生成する振動は1~5Hz程度であり、既存の回路技術ではこうした低周波振動に対応していないため、出力電力が小さくなってしまう。そこで低周波振動に最適な回路(図3)を設計して実験したところ、2.8Hzで2.36mWの出力を達成した。1mW前後で駆動できるセンサーや通信デバイスは沢山あり、そうしたIoTデバイス向けの電源回路としての活用が期待される。実際に人体に圧電素子を取り付けた実証実験も行っている(図4、図5)。現在、圧電素子と熱電素子の両方に対応する新回路を設計中で、複合的なエナジー・ハーベスティングへの展開を視野に入れて研究を進めている。アンビエントロニクス研究所内の様々なシーズ技術を社会実装する上で欠かせない技術と言えよう。


図3 圧電素子の加振器実験

 

 


図4 貧乏ゆすり実験

 


図5 足踏み実験

 

 

 

 

 

研究の原点はLSI設計から

柳澤教授は、LSIの設計思想を検討する研究からスタートし、FPGAの集積回路を設計していた。海底地図の作成などのフィールドワークに関わっていたこともあり、そうした経験を活かして研究室を運営しているという。史教授は、学生時代はアナログ回路設計に携わり、その後LSIの信頼性、安全性、低消費電力化に取り組むようになった。お二方ともLSI設計を専門としつつ、常にその視線の先に応用製品のイメージを見据えており、本研究所の材料・デバイス技術の社会実装を進めていく上でキー・パーソンズとなるだろう。

 



電子物理システム学科
柳澤政生 教授

経歴(柳澤政生教授)

1984年-1986年 早稲田大学情報科学研究教育センター助手
1986年-1987年 カリフォルニア大学バークレー校研究員
1987年-1991年 拓殖大学工学部情報工学科助教授
1991年- 早稲田大学助教授を経て1998年より教授。
●学外
文部科学省教科用図書検定調査審議会専門委員
電子情報通信学会基礎・境界ソサイエティ副会長

 



電子物理システム学科
史又華 教授

経歴(史又華教授)

2005年 早稲田大学 助手
2008年 同大学 客員講師(専任扱い) / CREST 研究員
2010年 同大学 助教
2012年 同大学 准教授
2017年 早稲田大学基幹理工学部 教授
●学外
電子情報通信学会(IEICE) 基礎・境界ソサイエティ論文誌 編集委員
電子情報通信学会(IEICE) 回路とシステム研究専門委員会 委員
東京大学大規模集積システム設計教育研究センター(VDEC)全国運営協議会 委員

 

記事作成:早稲田大学 アンビエントロニクス研究所 西当弘隆

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