File #2 人に役立つプラットフォーム作り

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シリーズ:アンビエントロニクス研究所の研究シーズ

情報理工学科 中島達夫 教授

(分散ユビキタスコンピューティング研究室)

 

「情報系分野の研究は、過去の成果に新たな要素を一つ一つ積み上げていく“工学的”アプローチと、とにかくラジカルに全く新しいものを追い求めるアプローチのどちらかに大別される」と中島教授は語る。中島教授の研究室の立ち位置は主に後者で、「分散ユビキタスコンピューティング」という分野を牽引している。研究のキーワードは「アンビエント・インテリジェンス」「拡張・仮想現実」「デザインインタラクション」「IoT」「コミュニティとクラウド」の5つ。これらを通じて「利用者に対し、金銭、安全、安心、体験、楽しみ、幸せ、刺激、快適などの”価値”を計算により生成すること」を研究の基本方針としている。言い換えれば「人に役立つプラットフォーム作り」であり、壮大なスケールと近未来を感じさせる研究を展開している。

 

計算により価値を生成する

コンピュータによる計算で、わたしたちは様々な価値を日常生活の中で享受できるようになるといわれている。このビジョンはすでに実現されつつある。例えば、仮想通過を発掘するマイニング(計算により金銭の対価を得る)、自動車の自動運転技術(計算により安全、快適の対価を得る)、ゲーム、バーチャルリアリティーによる体験(計算が楽しみ、仮想体験を提供)などが挙げられる。
中島研究室の研究指導は次のように進められる。(1)学生自身の好奇心に従い、興味深いケーススタディを形成する。(2)ケーススタディから一般的なガイドラインやフレームワークを抽出する。(3) それから本質的な問題を明確にしていく。このような流れで学生たちは自主的に卒業研究を進めている。研究室に配属後、数ヵ月間は様々なコンピュータ技術に触れながら、冒頭で挙げた5つのキーワードに当てはまるテーマを探す。現在は、「実世界の仮想化」「ハピネステクノロジー」「分散システムソフトウェア」に関する研究トピックスが多い(図1)。


図1 3つの研究トピックス

拡張現実技術を応用したサービスの開発

 

拡張現実は中島研究室で数多く行われてきた研究テーマだ。ここで一部だけ紹介しよう。図2Aの「AwareMirror」。これは鏡を見ながら身支度をする際、鏡の空きスペースに出かけるまでの時間、行き先の今日の天気や交通状況などを表示させるものだ。鏡下部にある「ファスナー」を開けることで詳細な情報開示が始まるユニークな仕掛けになっており、アナログとデジタルが絶妙に混ざったシステムになっている。図2Bの「Augmented Drum」は、実物のドラムの打面に画像を投影し、ドラムの練習を補助したり、演奏自体を面白くすること目的としたものである。同様のコンセプトとして、空手の技を繰り出した拳の先な炎などの画像演出をするものや(図2C)、仮想空間内を自転車で走り、安全運転、危険回避の疑似体験ができるものも開発された(図2D)。図2Eは、人の生活に役立つウェアブル・ロボットだ。いずれも学生自身が主体的に考えて進められた研究テーマだ。


図2A  AwareMirror

図2B  Augmented Drum

 


図2C Joyful Karate

 


図2D Immersive Bicycle Driving Training

図2E Adaptive Immersion & Snake SRL

 

分散ソーシャルメディアとシェアリングエコノミー

中島研究室の留学生が発案した分散ソーシャルメディアの例として、日本に来た外国人旅行者をサポートするシステムがある。例えば街中や駅などの表札が日本語表示のみで困ったとき、ネット上に助けを求めると、予め登録された複数のアドバイザーが回答するという助け合いのシステムだ。実際、このシステムを開発した留学生が母国に帰国後、このサービスを立ち上げたという。

シェアリングエコノミーは、個人が所有しているものを上手くみんなで共有する仕組みだ。このシェアリングエコノミーは「現実世界の仮想化」とらえることが有効だ、と中島教授は力説する。仮想化の概念に基づいてシェアリングエコノミーを抽象化し、コンピューテショナルなオペレーションを抽出することで、更なる連携や自動化が可能になるという。例えば、十分にプライバシーを考慮した上で、人が目で見ている情報を眼鏡のようなデバイスを用いて収集と共有ができれば、その情報からその人にとって有益な興味のある情報をリアルタイムで示すことができる。こうして、深く考えるきっかけや、新しい発想や感性などを提供できるシステムのプラットフォーム化を進めたいと、中島教授は語る。


図 分散ソーシャルメディアの例

 

 

研究の原点はOS開発

中島教授の研究の原点は、コンピュータのオペレーションシステム(OS)開発だ。中でも分散基盤ソフトウェア技術が中島教授の真骨頂だ。JST-CRESTプロジェクトで組込機器のCPUを有効利用するOSを開発した実績がある。複数の異なるOSで制御されているCPUを仮想的なCPUとみなすような統合的OSを用いることで、個々の処理内容に合わせて、CPUの使用配分を割り振るようなシステムを構築した。この研究はラジカルな新規性を追求する他のテーマと違って、極めて“工学的”だ。こうした工学的アプローチの研究テーマは少なくなったが、今も脈々と続けられている。

 

 

 

今後の展望

中島教授の研究対象は、人とコンピュータの繋がりの部分である。上述の拡張現実を低消費電力で提供できるハードウェアが実現されれば、もっと便利で新しいサイトを表示サービスプラットフォームを提案できるであろう。「そうしたハードとソフトの連携がアンビエントロニクス研究所の中でできたら非常に面白い。」 プラットフォームとしての当研究所の役割に大いに期待を寄せている。



情報理工学科 情報理工・情報通信専攻
中島達夫 教授

経歴

1900-1991年 カーネギーメロン大学 計算機科学科 研究員
1991-1992年 ドイツ国立計算機科学研究所 研究員
1992-1993年 カーネギーメロン大学 計算機科学科 研究員
1993-1999年 北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 助教授
1998-1999年 ケンブリッジ大学訪問教員、AT&Tケンブリッジ研究所研究員
1999年 早稲田大学 基幹理工学部 情報理工学科 教授
2005-2006年 ノキアリサーチセンターリサーチフェロー

 

記事作成:早稲田大学 アンビエントロニクス研究所 西当弘隆

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