File #9 マイクロマシーニング技術による振動発電

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シリーズ:アンビエントロニクス研究所の研究シーズ

電子物理システム学科 庄子習一 教授

基幹理工学部・電子物理システム学科の庄子研究室では、MEMS(Micro Electro-Mechanical Systemsの略)と呼ばれる先端技術をベースに、物理学、化学、生物学分野にわたる幅広い研究を行っている。MEMSとは、半導体集積回路の微細加工技術をもとにしたマイクロスケール、ナノスケールの小さな機能デバイスをつくる技術である。アンビエントロニクス研究所がターゲットとしているエナジー・ハーベスティング関連では、振動発電デバイスの開発に取り組んでいる。基礎研究、要素技術開発にとどまらず、実際に動作するデモ機まで作り上げる技術も有する、実践力ある研究室である。

庄子研究室では、得意とするMEMS技術と実装技術を活かして、様々な分野への応用を日々研究している。近年注目が高まってきたエナジー・ハーベスティングへの応用も5年ほど前から検討を始め、MEMS技術を最大限活かせるターゲットとして「振動発電」にたどりついた。
一口に振動発電と言っても、アプローチはいろいろある。庄子研究室が研究している振動発電は、(1)磁歪型と(2)圧電型の2種類だ

磁歪型振動発電デバイス

「磁歪」とは、磁場を印加し磁化させると形状にひずみが現れる現象である。強磁性体が有する性質で、庄子研ではFe-Co系にフォーカスを当てている。この材料は強固であることに加え、電気抵抗値のコントロールが容易で、その上しかも低コストという、振動発電材料として魅力的な性質を有する材料である。
図1に庄子研で実際に試作された磁歪型振動発電デバイスを示す。片手で持てる程度の大きさで、上部から力を加えると発電する。

 

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図1 磁歪型振動発電のデモ実機

 

 

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図2 磁歪型振動発電による電圧発生結果

 

図2に、磁歪型振動発電デバイスの出力電圧波形を示す。瞬間的に数十ボルトもの電圧が発生する。振動が加わった瞬間にLEDを点灯させたり、Bluetoothなど近距離無線通信の電波を発することも可能だ。要素部品の開発だけでなく、実装して動作実証まで行っている点が庄子研究室の真骨頂と言えよう。展示会等でアンビエントロニクス研究所の成果物を出展する機会が多いが、庄子研究室の振動発電デバイスは常にたいへん注目を浴びる

 


図3 イベント出展時のデモ機

 

プリンタブル圧電型振動発電デバイス

もう一方の「圧電」とは、物質に圧力を加えると電圧が発生する現象だ。庄子研究室では、インクジェットプリンターで作製できるユニークな圧電型振動発電デバイスを開発している(図4)。櫛場型形状をもったユニークなデバイスで、PVDF-TrFEという液体と銀ナノインクで印刷して作製できる。低コストで高速に作製できるシンプルなデバイスで、既にLEDの点灯実験にも成功している。

 


図4 プリンタブル圧電型振動発電デバイス

 

さらに発電能力を高めるため、デバイス構造の最適化に取り組んでいる。物理シミュレーションや試作を繰り返し、図5に示すような台形型のデバイス構造に行き着いた。薄膜同士の密着度を上げるなど工夫を凝らした結果、発電密度は最大で355nJ/cm^2まで達した。

 


図5 プリンタブル圧電型振動発電デバイスの改良

 

MEMSへの道

庄子教授は数々のMEMS関連の国際会議や学術誌の委員長を歴任され、同分野を代表する研究者ですが、もともとはバイオ系の研究を指向されていたとのこと。いつかはバイオテクノロジーに応用したいという夢を抱きながら、MEMS技術の研究に取り組んでいたという。図6に示す写真は、東北大学時代、1986年に開発したピエゾ・アクチュエータを用いた小さなマイクロポンプ。この研究で培った経験が現在の研究に活かされている。今も大事に保管されている実機をインタビュー時に拝見したが、庄子教授の思い入れが感じられる逸品だ。

 


図6 1986年に作製したマイクロポンプ

 

1990年にはスイス・ヌーシャテル大学の研究員として世界最先端のMEMS研究に取り組んだが、バイオテクノロジーへの思いは消えず、いつかはDNAやたんぱく質などの研究にMEMS技術を応用したいと日々模索していたという。現在の庄子研究室からは、細胞ハンドリングデバイス、化学分析デバイスなど、MEMS技術を用いた様々な医療用デバイスが世に発表されているが、これらは皆、30年以上も前から温めていた構想の結実なのだ。エナジー・ハーベスティング技術も今のところどのような使い方ができるか明確には見えていないが、10年、20年先まで見据えて根気よく研究を続けていくことが大切なのだろう。

 

 

 



電子物理システム学科
庄子 習一 教授

 経歴

1984 東北大学工学研究科 電子工学専攻博士課程修了(工学博士)
1984 東北大学工学部 助手
1990 スイスヌーシャテル大学 研究員
1991 米国・マサチュ-セッツ工科大学 研究員(国際共同研究)
1992 東北大学工学部 助教授
1994 早稲田大学理工学部 助教授
1997 同 教授

 

 

 

 

記事作成:早稲田大学 アンビエントロニクス研究所 西当弘隆

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