File #5 無異分野間をつなげる情報通信技術へ

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シリーズ:アンビエントロニクス研究所の研究シーズ

情報通信学科 戸川望 教授

(情報システム研究室)

 

基幹理工学部・情報通信学科の戸川研究室の研究テーマは、集積回路システムの設計やセキュリティ技術だ。現在推進中の研究テーマは「集積回路の設計技術・組合せ最適化」、「量子コンピュータ応用(量子アニーリング応用)」、「ハードウェアセキュリティ」に大別される。アンビエントロニクス研究所ではIoTシステム分野の大黒柱を担い、「IoT設計」「IoT応用」「IoTセキュリティ」といった、IoTの実現必要な情報通信技術を包括的に研究している(図1)。戸川研究室で現在進行中の研究開発プロジェクトはNEDO事業3件、総務省事業1件(図2)があり、これに加えて多くの民間企業との共同研究も推進している。これらのプロジェクトを主任研究員1名、講師2名、博士課程7名、修士課程11名の精鋭が支えている。しかも戸川教授は現在、基幹理工学部長兼基幹理工学研究科長も務めているから驚きだ。多忙を極める中で多くの最先端の研究プロジェクトを統括しているという事実は、パワフルで凄まじい戸川教授の超人さを物語っている。

 


図1 戸川研究室におけるIoTシステム分野の研究

 

 


図2 戸川研究室で進行中の研究開発プロジェクト

 

IoTシステム分野

図1に戸川研究室で進行中のIoTシステムに関連する研究プロジェクトを示す。「IoT応用」に関して、ウェアブルグラスやスマートウォッチなどに内包されるセンサ類を用いて自分の現在地を照合し、行きたい方向を指し示す未来技術の開発を行っている。「IoT設計」部門では、ICチップの設計に始まり、小型コンピューティングボードを多数使用したシスムの構築やアーキテクチャ設計を行っている。さらに、それらのチップやボードを外側から計測し、容量や電力波形を測定することで、正常な動作を確認する研究も行っている。これは「IoTセキュリティ」部門に属し、異常な動作が検出されれば、外部からのアタックを受けているなど、セキュリティ上の問題の発見につながるという。戸川研究室が特に関心を寄せる情報セキュリティは、以下に述べる「ハードウェア・セキュリティ」だ。

ハードウェア・セキュリティ

現在、コンピュータに搭載されている様々なICチップや集積回路システムは複雑さを極め、ひとつのメーカだけで設計から製造まで一貫生産している例はほぼ皆無といってよく、高度に分業化が進んでいる。従って、前工程から来た部品類が潜在的にセキュリティ的なリスクを持っていないかどうか、受け入れ検査自体が重要な工程となってきている。昨今のニュース報道などからも、半導体に限らず、様々な部品(ハードウェア)の異常動作、セキュリティ・ホールの有無を調べる事は大変重要であることは理解できよう。ましてや、ハードウェアに悪意で組み込まれた機能(ハードウェアトロイ)が含まれたIoT機器が世の中に分散したらどれほどの脅威であるか、想像に難くない。戸川教授は、設計工程でのハードウェアトロイの検出に関する研究の第一人者であり、しかもこの分野の日本の研究者人口も限られているため、戸川教授のもとへハードウェアセキュリティに関する研究要請が集中しているというわけだ。戸川研究室は早稲田大学だけでなく、国家の大きな期待も背負っているのである。

量子コンピュータとその応用

最近話題の量子コンピュータとは、量子力学を応用した未来の計算機のことだ。しかし量子コンピュータは現在のコンピュータとは動作原理が全くことなるため、仮に理想のハードウェアができたとしても使いこなすのが難しい。戸川研究室では、「量子ビット」でイジング模型を実現し組合せ最適化問題を解法する「量子アニーリング方式」の使いこなし方に焦点をあてて研究を行っている。これは、極めて計算が困難な組合せ最適化問題・機械学習(AI)を効率良く計算するための取り組みである。分かり易い問題例として「矩形のパッキング最適化」がある。図3に示すように、形の異なる1~4の箱を、どのように並べるのが無駄なくコンパクトに配置できるかというか、という問題である。人間が行えば簡単に出来そうに見えるが、これをコンピュータに解かすのは難しく、従来型コンピュータで解こうとすると途方もない時間を必要とする。しかし量子コンピュータであれば、短時間で解を導くことができるとのこと。量子コンピュータといえば、何かまだ縁の遠い技術と思われるが、こんな身近な問題の解決に使用できるとなると、将来身近で役立つ姿を想像できそうな技術ともいえる。

 


図3 量子コンピュータの計算適用事例

 

他分野と連携する情報通信技術へ

情報通信分野はそれだけでも広大で深い分野であるが、戸川教授は「異分野、他分野との連携が今後はますます大切だ」と力説する。理工系の枠にとどまらず、早稲田大学の社会人文系との連携も今後は必要だという。こうした信念に基づき、基幹理工学部のさらなる発展と他分野との相乗効果を高めるために、戸川教授は執行部筆頭としても日々活躍されているのだ。研究と学内マネジメントを両立させているそのバイタリティには驚かされる。戸川教授の話は理路整然として極めて明快であり、学術的に難解なテーマの話でも、要点をわかった気にさせてくれる。電気信号のとしての情報通信技術にとどまらず、異分野同士の研究者、立場の異なる人々の仲立ちをするコミュニケーション技術のプロフェッショナルとしても、今後ますます活躍してくれることだろう。

 

 

 



情報通信学科
戸川 望 教授

経歴

1992年 早稲田大学理工学部電子通信学科卒業
1997年 同大学院理工学研究科博士後期課程修了
1997年 博士(工学)早稲田大学
現在,早稲田大学理工学術院・教授/基幹理工学部長兼基幹理工学研究科長

 

 

 

記事作成:早稲田大学 アンビエントロニクス研究所 西当弘隆

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