File #4 無線通信技術をフル活用する

//

このページをSNSへ投稿


シリーズ:アンビエントロニクス研究所の研究シーズ

情報通信学科 嶋本薫 教授

(情報システム研究室)

 

基幹理工学部・情報通信学科の嶋本研究室では、「光無線通信」「人体情報センシング」「車用通信」「航空宇宙通信」「人工知能通信」「次世代無線通信」など、およそ無線通信にかかわることは何でも研究対象としている(図1)。嶋本先生ご自身の健康管理をきっかけに研究を開始した血糖値の光測定技術、手のひらキーボードで文字入力を可能にする人体情報センシング、現在話題の5Gの、そのさらに次の世代の無線通信技術”Beyound 5G”の検討など、実に幅広い。嶋本研究室ではこれら多岐にわたる研究を、多くの学生や研究スタッフの力を結集して推進している。本インタビューで研究室にお邪魔した際、多くの留学生が真剣に研究に取り組んでいる様子がとても印象的であった。

 


図1 嶋本研究室の研究分野・大区分

 

人体情報センシング

嶋本教授は数年前に体調を崩され、毎日の血糖値測定を余儀なくされた。「この煩雑な作業を無線通信技術で簡便に出来ないだろうか。」 そう考えた嶋本教授は、光と超音波を組み合わせて血糖値を測定する画期的な方法を考案した。
また、嶋本教授は、運動後の血圧・脈拍を市販のカフ付き血圧計で測定し、同時に28GHz、32GHzミリ波を首に透過/反射させて波形を測定した(図2、図3)。この実験を繰り返して、非接触で血圧を再現性良く測定できる方法を見出した。これらの研究は従来の接触型から解放され、手軽に血糖値、血圧値を測定できれば健康管理が飛躍的に楽になったことで、自身の健康問題とも前向きに歩んでいけるようになったという。ご自身の病までも研究のネタにするというこのエピソードは、好奇心とバイタリティーあふれる嶋本教授の真骨頂が発揮されていて、大変興味深い。

 

 

図2  手のひらに透過させた様子          図3  手首に透過させた様子

 

人体情報のセンシングに関連した研究テーマとして「肌着センサによる姿勢把握」もある。赤ちゃんの肌着に圧力センサ、無線モジュール、エナジーハーベスティングモジュールを組み込み、リアルタイムで姿勢を把握することが出来るシステムだ(図4)。床に圧力センサを置いて、その上に寝る赤ちゃんの体動(寝返り、呼吸など)を測定し、呼吸など微小な体の動きや、寝返り動作などを正確に検出できる。保育所など多数の幼児を見守る施設で用いれば、うつ伏せ姿勢による窒息事故の防止に役立つ。他にも、満腹度合のリアルタイム把握システム、噛む回数のカウントシステム、瞬きのカウント、超音波通信に基づく無線システムなどを開発してきた。まさに、人間の命と暮らしの質の向上のため、無線通信技術をフル活用している。

 


図4  乳幼児用肌着センサによる姿勢把握のイメージとその実験機器

 

無人飛翔体を用いた行方不明者捜索技術(航空宇宙通信分野)

日本のみならず、世界各地でいつでも起こりうる自然災害。迅速な人命救助は、災害時の最優先のミッションである。嶋本研究室では、無線通信技術を活かして、限られた時間内に数多くの人命を捜索する技術の開発にも取り組んでいる。


図5  ドローンや無人機による行方不明者捜索技術のイメージ

嶋本教授は、地上に配置したWireless Sensor Network(WSN)から得られる情報を無人機(UAV)で収集することにより、短距離・低コスト且つ展開性に優れたシステム「WSN-UAV通信」の実現を目指している。UAVの高度やUAV搭載アンテナの電力半値角の違いによるビームカバレッジの変化、通信方式の違いを想定し、ビーム方向制御や優先制御を取り入れながら、通信性能(スループットなど)の変化をシミュレーションで調査している(図6)。複数のUAVの飛行パターンと位置関係を把握し、効率的な情報収集の方法も検討している(図7)。さらに、シミュレーションにとどまらず、実験UAV機を用いた測定も実施しており(図8)、シミュレーションと実験の両輪で、信頼性向上に努めている。災害状況の把握と二次被害の抑制につながる、人間の命を守る近未来の無線通信技術といえよう。

 


図6  WSN-UAV通信シミュレーションモデル概要図

 


図7  UAVの飛行パターンと配置の例

 


図8  実験UAV機

 

 

あらゆる情報通信技術の研究へ

嶋本研究室では、正確な電波実験が行える「電波暗室」(図9)を運用している。電波暗室を持つ教育機関は限られており、嶋本研究室はもちろん、早稲田大学にとっても強力な武器だ。学部教育や学内外との共同研究で大いに利用されており、アンビエントロニクス研究所でも積極的に活用してほしいという。
嶋本研究室の研究テーマはまだまだ沢山あり、とてもここでは書ききれないが、最後に一つだけ、エナジー・ハーベスティング技術に関わるユニークなテーマを紹介しておこう。微生物によるIoTセンサ用電源の開発だ。植物の光合成と微生物の作用を組み合わせたもので、いわば「微生物燃料電池」。現在進行中のホットな研究テーマである(図10)。
一口に、無線通信技術といっても、宇宙や大気を伝搬する電波に限らず、光や音波も似たような物理現象として扱えるため、本質を極めるとその応用は限りなく拡がる。森羅万象を波動工学の立場から俯瞰し、無線情報通信技術の新しい展開に挑戦する嶋本研究室。今後もますますの発展が期待される、目が離せない研究室だ。


図9  嶋本研究室にある電波暗室

 


図10  微生物(Geobacter)によるIoTセンサ用電源

 

 

 

 



情報通信学科
嶋本 薫  教授

経歴

昭和60年3月 電気通信大学電気通信学部通信工学科卒業
昭和62年3月 電気通信大学大学院電気通信学研究科通信工学専攻修了
平成5年10月 博士(工学)東北大学
昭和62年4月‐平成3年3月 日本電気株式会社
平成3年4月‐平成4年9月 電気通信大学電気通信学部助手
平成4年10月‐平成5年12月 群馬大学工学部助手
平成6年1月‐平成12年3月 群馬大学工学部助教授
平成12年4月‐平成14年3月 早稲田大学大学院国際情報通信研究科 助教授
平成14年4月 早稲田大学大学院国際情報通信研究科 教授
平成20年7月-平成20年12月 米国Stanford大学 客員教授
平成26年4月 早稲田大学基幹理工学部情報通信学科教授
平成28年3月 JAXA研究アドバイザー
平成29年 日本シミュレーション学会理事

 

 

 

記事作成:早稲田大学 アンビエントロニクス研究所 西当弘隆

このページをSNSへ投稿