File #7 分光化学で切り拓くエネルギー・環境技術

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シリーズ:アンビエントロニクス研究所の研究シーズ

化学・生命化学科 古川行夫 教授

先進理工学部 化学・生命化学科の古川研究室が推進している研究は、「有機無機ハイブリッド・ペロブスカイト太陽電池の開発」、「高分子太陽電池の開発と光励起キャリヤ再結合過程の研究」、「温室効果ガス(CO2)の高性能アミン吸収液の開発」、「高分子の赤外シュタルク効果」の4テーマに大別される。鍵となるのは「分光計測」技術。13名の学生メンバーと共に、化学のアプローチでエネルギー・環境技術に資する機能性材料の開発に取り組んでいる。

有機・無機ハイブリッド材料を用いる新しい太陽電池

単結晶や多結晶の無機材料を用いた太陽電池、あるいは有機分子を用いたフレキシブル太陽電池は一般的に知られているが、古川教授は専門の化学的アプローチで、有機物質と無機物質を組み合わせた画期的な”有機無機ハイブリッド・ペロブスカイト太陽電池”の開発に取り組んでいる。近年、20%を上回る高い変換効率を実現し、世界中が注目している材料だ。古川研究室ではラマン分光計測による詳細な物性測定を通じて、変換効率のさらなる向上と長寿命化を目指している。研究室に配属されて間もない学生でも、作製手順をきちんと踏めば最初から変換効率13%程度の太陽電池ができてしまうというから驚きだ。大いなる潜在能力がこの材料に秘められていそうだが、もちろん古川教授の優れた研究指導力があってのことであろう。古川研究室ではさらに、有機無機ハイブリッド材料を用いたトランジスタなどのデバイス開発も行っている。

 


図1 有機無機ハイブリッド・ペロブスカイト太陽電池の開発と物性

 

 

高分子太陽電池の開発

先に紹介した有機+無機のハイブリッド太陽電池に加えて、古川研究室では有機高分子のみからなる太陽電池の開発も行っている。高分子太陽電池では、性能向上、長寿命化といった応用向けた課題はもちろん、その光電効果のメカニズムそのものも重要な研究課題となっている。古川研究室では、時間分解IR法で光励起キャリヤが再結合に至るダイナミクスの解明に取り組んでいる。

 


図2 高分子太陽電池の開発と光励起キャリヤ再結合過程の研究

 

高性能なアミン吸収液で温室効果ガス(CO2)の吸収

古川研究室では、温室効果ガス(CO2)を吸収できる高性能なアミン吸収液を民間企業と共同研究で開発している。火力発電所等から大量に排出される燃焼排ガス、そこに含まれる温室効果ガス(CO2)を効果的に回収できないだろうか? そうした企業ニーズに応える形でこの共同研究スタートした。アミン系溶剤でCO2を吸収できるが、より吸収能力の高いアミン溶液を得るため、古川研究室では、13C-NMR分光を駆使して反応生成物の定性・定量分析行い、再生エネルギーを予測する熱力学モデルを構築して、吸収液の性能を定量的に評価している。CO2を吸収したアミン溶液は加熱することで、再びCO2を吸収できるようになるが、古川先生はさらに再生処理前後のアミン溶液の熱特性を利用して再生エネルギーを小さくするという、夢のような技術の実現を目指している。化学熱力学と、分光特性の知識を有する、古川先生だからこそできる挑戦といえよう。

 


図3 温室効果ガス(CO2)の高性能アミン吸収液の開発

 

 

 

高分子の赤外シュタルク効果

特定の高分子は、外部から電場を印加することで赤外スペクトルの変化が現れる、赤外シュタルク効果と呼ばれる現象を示す。古川研究室では、この赤外シュタルク効果のための新しい分光測定法の開発も行っている。 分光測定技術は、古川先生の真骨頂であり、重なったバンドの分離、分子の方向までも決定できる測定法として、大変注目を浴びている研究である。

 


図4 高分子の赤外シュタルク効果

 

有機化学と分光測定を駆使してさらなる可能性を

古川先生は、導電性高分子の発見と開発でノーベル化学賞を受賞している白川英樹先生と共同研究を行ったとのこと。お話を聞いて、分光特性からアミンやポリマーなどの高分子の構造や機能の本質を探求し、太陽電池技術やグリーン・ケミストリーへの応用を目指している事が分かった。20世紀は物理学が花開いた世紀だとすれば、、21世紀は化学が科学技術をけん引する時代になるとの見方もある。有機化学と分光測定を駆使した古川先生のアプローチで、地球環境にやさしい持続可能な新技術が次々に生まれるかもしれない。実際、今回のインタビューを通じて、アンビエントロニクス研究所内で始められそうな新たな研究の芽を見出した。今後も古川先生の研究から目が離せない。

 

 

 



化学・生命化学科学科
古川 行夫 教授

 経歴

1982年-1987年 東北大学薬学部助手
1988年-1990年 東京大学理学部助手
1990年-1992年 東京大学理学部講師
1992年-1997年 東京大学理学部助教授
1997年-現在  早稲田大学理工学部教授

 

 

 

記事作成:早稲田大学 アンビエントロニクス研究所 西当弘隆

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