File #8 物理は実験現場で見つけるもの

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シリーズ:アンビエントロニクス研究所の研究シーズ

物理学科 勝藤拓郎 教授

先進理工学部 物理学科の勝藤研究室では、新奇熱電材料をはじめとする様々な新物質の研究に取り組んでいる。研究の柱は「物質開発」と「物性測定」だ。もちろん「新しいこと」が条件。助教、研究員、学生を含めた15名の研究室メンバーと共に、物性物理学の最前線でエキサイティングな研究を展開している。

【New Physics through New Materials】

勝藤教授のモットーは「New Physics through New Materials !」 新しい物質を開発してこそ、新しい物理が生まれる。だから「物質開発」は勝藤研究室の最重要テーマの一つだ。主に酸化物を対象とし、単結晶や多結晶の育成技術を日々磨いている。新しい物質は新しい物性物理学の舞台となる。より専門的な表現をすると、新しいハミルトニアンのフィールドを開拓するということになる。

「物質開発」と並ぶもう一つの柱が「物性測定」。新しい物質を創ったら、その新しい性質を測定できちんと評価する必要がある。既知の測定方法で新しい物理現象を把握できること場合もあるが、できないことも往々にしてある。勝藤研では、光測定、電気測定、磁気測定を中心に様々な物性測定を行っている。

このように「物質開発」と「物性測定」を両輪にして、勝藤研では日々、新しい物性物理の地平を拓いている。

 


図1 研究室のスタイル

 

現在、量子力学的な波動性と粒子性が織り交ぜあった現象や固体中の電子の集団的挙動が関与するするような、多彩で新しい物理現象を見出すことに力を入れている。現在の教科書にあるような、金属/絶縁体、磁性、超伝導、強誘電性といった既存のカテゴリーではなく、それらの融合した新しい現象が発現するような、全く新しい物質を創造したい!そんなを思いを強く秘めて研究に邁進している。

 


図2 勝藤研が目指していること

 

【勝藤研が見つけた新物質】

一口に固体物理と言っても様々な固体材料がある。勝藤研究室では特に酸化物材料にスポットを当てている。酸化物の組合せは様々な無機化合物のカテゴリーの中でも群を抜いて多く、未知の物質がまだまだ沢山眠っている宝の山。「物質開発」と「物性測定」を得意とする勝藤研究室が活躍できるフィールドとして最適だ。

これまでに得られている成果をいくつか紹介しよう。結晶構造、電気伝導、誘電率、熱伝導の変化を、外部磁場で制御できるような新しい酸化物が勝藤研で発見されている(図3)。

BaV10O15という化合物系では、新しい相転移現象を発見した(図4)。200~300Kの温度領域で熱伝導率が特殊な振る舞いをしている。これは物質中の電子の軌道の揺らぎの影響と考えられている。この揺らぎをさらに大きくすればフォノンによる熱伝導を劇的に変化させられると期待される。

極めてゆっくり変化する物性を見つけようという研究も行っている(図5)。有機物の世界で「電荷ガラス」として知られている現象に近く、電子位置は変わらずに軌道のみが変わるという。ある種の過冷却現象とも言えるものであり、時間で熱活性するというユニークな物理現象だ。

アンビエントロニクス研究所が目指す環境発電に関連深いテーマが熱電材料の探索だ(図6)。学術的に興味深い物理現象の発見だけでも研究者冥利に尽きるが、さらにそれが産業に役立つことがあれば面白い。注目しているのはBaxTi8O16+σという酸化物だ。一般に酸化物の熱電材料は900K以上などの高温でないと効力を発揮しないが、組成を決めるパラメータxとσを調節することでキャリア濃度を変化させ、室温付近で高い熱電性能を示している、ハイインパクトな材料だ。

 


図3 「外部磁場で物性を制御する」

 

 


図4 「新しい相転移を見つける」

 

 


図5 「時間でゆっくり変化する物性を見出す」

 

 


図6 「役にたつ材料を見つける」

 

【物理は実験室で見つけるもの】

様々な物性が温度によって劇的に変化することがこれまでの研究で明らかにされている。こうした現象をさらに深く調べ、研究開始時には想像しなかったような物理状態や物理現象を発見したい。そんな気持ちを胸に秘めて日々研究に取り組んでいると勝藤教授は語る。研究室では、従来の固定概念に縛られないよう、伝統よりも自主性を尊重し、オリジナルで新しい研究を推し進める雰囲気を大切にしている。これまでの歴史を振り返ってみても、新しい物理学のほとんどは新しい実験結果によって生まれてきた。物理学をさらに進歩させるためにも、とにかく新しいもの実験室(現場)から生み出したい。静かだが力強い勝藤教授の言葉から、これからもまだまだ新しい物理が創出されていくことが予感させられる。

 

 

 


物理学科
勝藤 拓郎 教授

 経歴

1995年-1997年 東京大学大学院工学系研究科助手
1997年-1999年 ベル研究所博士研究員
1999年-2001年 科学技術振興事業団戦略的基礎研究推進事業研究員
2001年-2002年 科学技術振興事業団基礎的研究発展推進事業研究員
2002年-2007年 早稲田大学理工学部物理学科助教授
2008年- 早稲田大学理工学術院先進理工学部物理学科教授

 

 

 

記事作成:早稲田大学 アンビエントロニクス研究所 西当弘隆

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